食物アレルギーはどのようにして起こる?原因となる食材や症状、メカニズムについて

食物アレルギーはさまざまな食材で発症する可能性があります。食物アレルギーとうまく付き合っていくには、食物アレルギーの原因や症状などについて正しく理解しておくことが大切です。

この記事では、食物アレルギーとはどのようなものか解説します。原因となる食材や具体的な症状とともに、食物アレルギーのメカニズムについても詳しく説明しますので、ぜひ参考にしてください。

 

食物アレルギーとは?

 

食物アレルギーとは、食べ物を起因として体の免疫機能が働いた結果、湿疹、下痢、じんましんといった症状が現れることです。免疫機能とは、細菌やウイルスなどの異物から体を守るための仕組みを意味しています。

食物アレルギーを引き起こす可能性のある食べ物はさまざまあります。食物アレルギーが起きている場合、体の免疫機能は、本来人間の体にとって害の無い食べ物に対して過剰に反応している状態です。

 

アレルギーを引き起こす原因となるものは、アレルゲンと呼ばれています。アレルゲンを摂取すると腸から吸収され、血液によって全身に運ばれます。そのため、食物アレルギーの症状は、腸、肺、のど、眼、鼻、皮膚など全身に広がるケースも多いです。

 

食物アレルギーは現代病?

1950年代までは、日本で食物・ハウスダスト・花粉等のアレルギーの報告はほとんどありませんでした。しかし、現在では日本人の3人に1人は何らかのアレルギー症状を感じていると言われています。

アレルギーが問題になっているのは、欧米や日本などの先進国が中心です。そのため、文明の発展や工業化などは、アレルギーを引き起こす原因の1つになっていると考えられています。

 

食物アレルギーの発症そのものは、IgE抗体の量が測れるようになった1980年代頃から確認されていました。ただし、日本で食物アレルギーの発症が目立つようになってきたのは、2000年代以降です。以前はアレルゲンではなかった果物・野菜・芋類などの食べ物が原因となっているケースも増えています。

 

食物アレルギーの原因食材

食物アレルギーの原因食材は、タンパク質が中心です。消費者庁の調査によると、食物アレルギーの原因食材の内訳は以下のとおりです。

 

上位5品目にあたる鶏卵、牛乳、木の実類、小麦、落花生だけで、全体の 80.4%を占めています。

0歳で食物アレルギーを発症する場合、鶏卵、牛乳、小麦がアレルゲンとなるケースがほとんどです。年齢が上がるにつれ、木の実類や魚卵でも症状が出るパターンが見られます。


なお、近年はくるみにより食物アレルギーの症状が出る人が増えています。そのような状況を受け、加工食品に対して義務付けているアレルギー表示の対象にくるみを追加すると消費者庁が発表しました。

加工食品のアレルギー表示の確認方法や見方についてはこちらの記事「食品のアレルギー表示の対象28品目と表記の見方」でくわしく解説しているため、あわせて参考にしてください。

 

食物アレルギーの症状

食物アレルギーの症状としては、さまざまなものがあります。厚生労働省が公開している資料をもとに具体的な症状をあげると、以下のとおりです。

 

(表1)食物アレルギーにより引き起こされる症状

【皮膚粘膜症状】
・皮膚症状:掻痒感、じんましん、血管運動性浮腫、発赤疹、湿疹
・結膜症状:眼結膜充血、掻痒感、流涙、眼瞼浮腫
 
【消化器症状】
・悪心・疝痛発作・嘔吐・下痢
・慢性の下痢による蛋白漏出・体重増加不良
 
【上気道症状】
・口腔粘膜や咽頭の掻痒感・違和感・腫張
・咽頭喉頭浮腫
・くしゃみ・鼻水・鼻閉
 
【下気道症状】
・咳嗽・喘鳴・呼吸困難
 
【全身性反応】
・ショック症状(頻脈・血圧低下・活動性低下・意識障害など)

 

引用:厚生労働省 第4章 食物アレルギー

 

アレルギー反応の多くはIgE抗体によって引き起こされており、特に多い症状は皮膚疾患です。たとえば、皮膚のかゆみ、じんましん、皮疹(ひしん)発赤(ほっせき)などがあげられます。

なお、症状の現れ方は、年齢や体内にとり入れたアレルゲンの量によっても変化します。

 

アナフィラキシーについて

アナフィラキシーとは、IgE抗体の働きによって発症する強いアレルギー症状のことです。皮膚、呼吸器、消化器など複数の臓器に症状が現れます。アナフィラキシーの症状が進むと血圧が下がり、意識にも影響が出る恐れがあるため要注意です。

 

アレルギー反応によって意識が朦朧としたり意識障害が生じたりする状態は、アナフィラキシーショックと呼ばれています。命の危険も伴うため、症状が出た場合はすぐに治療しなければなりません。今のところ治療薬として有効なのはアドレナリンのみであり、適切に投与する必要があります。

 

厚生労働省が公開している資料によると、アナフィラキシーショックにいたるほどの強いアレルギー反応を引き起こす可能性がある食材は、多い順に卵、牛乳、小麦となっています。

 

特殊なタイプの食物アレルギー

 食物アレルギーとしては、一般的によく見られるもの以外にも特殊なタイプがいくつかあります。アレルギー症状に気をつけるためには、特殊なタイプについても把握しておくと安心です。ここでは、特殊なタイプの食物アレルギーについて具体的に紹介します。

 

口腔アレルギー症候群

口腔アレルギー症候群では、食べ物を食べた後に唇、舌、喉などにしびれ、かゆみ、むくみなどの症状が出ます。症状が重い場合、ショック症状を引き起こす可能性もあります。症状が出るのは、食べ物を口にしてから数分後です。口腔アレルギー症候群の原因となるのは、メロン、モモ、キウイ、パイナップル、リンゴなどの果物や野菜です。

口腔アレルギー症候群は、花粉症とも関連しているのではないかと推測されています。海外では、シラカンバの花粉との交叉反応がアレルギーの発症につながっていると考えられています。

 

食物依存性運動誘発性アナフィラキシー

食物依存性運動誘発性アナフィラキシーとは、ある食べ物を食べて運動した後に起こるショック症状のことです。たとえば、食事をとってすぐ体に負荷のかかるトレーニングをした場合など、食後に激しい運動をすると発症するケースがあります。最初は蕁麻疹が出て、次第に症状が重くなるパターンが多いです。

ただし、そもそも食物依存性運動誘発性アナフィラキシーが起こる可能性は、それほど高くありません。症状を比較的誘発しやすい食材としては、小麦や魚貝類などがあげられます。

 

食物アレルギーの仕組み

食物アレルギーは、そもそもどのような仕組みで発症するのでしょうか。すでに触れたとおり、食物アレルギーは体の免疫機能の過剰反応により発生しています。ここでは、食物アレルギーの仕組みについて解説します。

 

IgE抗体について

食物アレルギーは、主にIgE抗体によって引き起こされています。IgE抗体は、生体内に存在するタンパク質です。IgE抗体は免疫グロブリンEとも呼ばれており、1960年代に石坂公成博士によって発見されました。

食べ物の成分が腸から吸収される際に害のある異物だと認識された場合、IgE抗体の反応によりアレルギー反応が誘発されます。

IgE抗体によって引き起こされるアレルギーは、即時型アレルギー反応です。アレルゲンが体内に入ってから比較的早く症状が出ます。発症までの時間は長くても数時間以内です。

 

食物アレルギー発症のメカニズム

ある食べ物を食べた際に免疫機能によって体に害のある物質だと判断された場合、IgE抗体が作られます。IgE抗体は、皮膚、鼻粘膜、腸粘膜、気管支粘膜、結膜などに存在するマスト細胞と呼ばれる細胞と結合します。害のある物質が体内に入ってきたときにすぐ対応するためです。

アレルゲンとして判断された食べ物が再び体内に入ってくると、食べ物が消化されて腸から吸収される際に、IgE抗体が過剰反応を示します。その刺激により、マスト細胞はヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質を出します。

この化学物質によって、湿疹、じんましん、下痢、咳といったさまざまなアレルギー症状が誘発される仕組みです。

 

食物アレルギーを発症したかも?と思ったら

 

食物アレルギーを発症した可能性があるなら、早めに必要な対応をとることが大切です。そのままにしていると症状が悪化する危険性もあるため、注意しましょう。ここでは、食物アレルギーを発症したときに必要な対応について具体的に解説します。

 

自己判断せずに、病院へ相談する

食物アレルギーのような症状が出た場合、まずは病院へ相談しましょう。もちろん、食べ物を食べた際に何らかのトラブルがあったからといって、絶対に食物アレルギーだというわけではありません。しかし、自分の感覚だけでは誤った判断をする可能性が高いため、専門の医師の診断により正しい判断を受けることが重要です。

病院を受診すれば医師による食習慣の問診だけでなく、皮膚テストや血液検査なども受けられます。食物負荷試験の実施により、食物アレルギーがあるかについて客観的な判断を下せます。

 

医師の栄養指導を受ける

現在、食物アレルギーを治すための薬はありません。食物アレルギーと付き合っていくには、原因となる食べ物を摂取しないようにする必要があります。栄養のバランスが著しく崩れないようにするために、医師による栄養指導が行われます。

場合によっては代替食品について案内があるため、指示に従って食生活に取り入れましょう。

なお、原因となる食べ物が含まれていることに気付かず食事をとった場合に備え、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などが処方されるケースもあります。

 

食物負荷試験で摂取許容量をはかる

小さな子どものうちに食物アレルギーを発症した場合、将来的にアレルギーの原因となる食べ物を問題なく食べられるようになる可能性もあります。たとえば、食べる量を少しずつ増やしていく「経口免疫療法」という方法もあります。そのような方法をとる際は、必ず医師の指示に従いましょう。

食物アレルギーが改善したかどうかは、皮膚テストや血液検査では判断できません。実際に食品を摂取する食物負荷試験で確認する必要があり、試験中に症状が現れる恐れもあります。リスクがあるため、こちらも必ず医師の指示に従って慎重に行ってください。

 

食物アレルギーの正しい知識をつけて対策しよう

食物アレルギーは、免疫機能が特定の食べ物に対して過剰に反応することで発症します。症状が重い場合は生命に危険が及ぶ可能性もあるため、十分な注意が必要です。

食物アレルギーを発症する人や食べ物の数は、以前よりも増えている状況です。身近な食べ物により食物アレルギーを発症するケースは、珍しくありません。なかには特殊なタイプの食物アレルギーを発症する人もいます。

食物アレルギーが疑われる何らかの症状が出たときは、自己判断せず専門の医師の診察を受けましょう。

早い段階で適切な対応をとれば、食物アレルギーとうまく付き合っていくことが可能です。医師の指導のもとで食物アレルギーに対応し、状況に応じて代替食品も活用しましょう。

 

 

◎記事監修

佐藤留美(さとう・るみ)

藤崎メディカルクリニック 副院長医学博士。

日本内科学会認定・総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医、日本感染症学会専門医・指導医、日本化学療法学会認定医・指導医、日本結核病学会抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター、肺がんCT検診認定医

平成14年に久留米大学第一内科に入局。2年間の研修後は市中病院に勤務。その後、佐賀大学医学部大学院へ進学し、感染症の研究を行い医学博士を取得。

現在は朝倉医師会病院 呼吸器科医として勤務する傍ら、2023年10月より藤崎メディカルクリニック 副院長に就任。呼吸器・感染症・アレルギーを専門に診療を行っている。

 

参考文献

第4章 食物アレルギー 厚生労働省 参照年月日:2024年2月20日 第4章 食物アレルギー|厚生労働省

令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書消費者庁 参照年月日:2024年2月20日 令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書|消費者庁

くるみの義務表示化の 経緯等について 消費者庁 参照年月日:2024年2月20日 くるみの義務表示化の 経緯等について|消費者庁食品表示企画課

食物アレルギー 東京都保健医療局 参照年月日:2024年2月20日 食物アレルギー|基礎知識|東京都アレルギー情報navi