米粉の種類は?お米の品種で特徴が変わる?

従来の小麦粉に代わりパンやお菓子、麺などの材料として、お米からつくられる「米粉」が注目されています。お米には驚くほど多くの品種がありますが、それらを原材料に、それぞれの料理に適した様々な種類の米粉が製造されていることをご存じでしょうか?米粉に使われるお米の品種の特性を知ると、レシピの幅も広がるでしょう。

そこでこの記事では、お米と米粉の多彩なバリエーションを、用途や特徴とともに解説します。

 

米粉に向く品種と特徴

“米粉と米粉パン”

米粉用のお米はそのまま炊いて食べるわけではないため、パンやお菓子、麺等への加工のしやすさが必要です。理想的な仕上がりとなるように「アミロース」と「アミロペクチン」という2種類のでんぷんを適切な割合で含み、それぞれの加工に適した米粉がつくられています。

原材料となるお米の品種ごとにパン向き、お菓子向き、麺向きなど米粉の用途の違いをみていきましょう。

 

米粉 お菓子用

お菓子づくりに向く米粉は、加工の際に粘りを抑える性質を持つでんぷん「アミロース」の含有率20%未満が基準です。特にシフォンケーキのような柔らかなスポンジケーキをつくるにはアミロース含有率が15%未満のソフトタイプが良いとされ、生地をしっとりと焼き上げるために向いています。

米粉 お菓子用に向いている米の品種は、ゆめふわりとミルキークイーンです。

 

ゆめふわり

アミロース含有率が約8%と少なく、シフォンケーキを始めとする、ふんわりとソフトな食感のお菓子用に適した品種です。もちを思わせるような白色の粒は製粉してもデンプン粒の割れや傷が生じにくいため(デンプン損傷率2.2%)、パンをしっかりと膨らませて焼きあげられます。東北中部より南の地域が栽培適地です。

 

ミルキークイーン

アミロース含有率は約8.5%で「ゆめふわり」同様にシフォンケーキ状のお菓子をつくるのに向いています。栽培適地も同じ東北南部以南です。コシヒカリの改良品種で、コシヒカリよりもアミロース含有率が低いため粘りが強いのが特徴です。

 

米粉パン用

パンづくりに向く米粉のアミロース含有率は15%以上25%未満です。アミロース含有率15%以上20%未満の場合だと普段食べているお米くらいの食感(あっさりでもなく、しっとりでもない中間)で、20%以上の場合だとややあっさりとした食感のパンが焼きあがります。製粉時のデンプン粒の損傷が少なく、粒子が細かい米粉ほど吸水が適度に行われるため、酵素が働きやすく型崩れしにくくなります。

米粉パン用に適する品種は、ほしのこ、こなだもん、笑みたわわ、ミズホチカラです。特性などについては以下で紹介していきます。

また米粉パンを食べるメリットや栄養素については以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

米粉パンのメリット5選!米粉の種類や栄養素など 

 

ほしのこ

米粒が軟らかくて砕けやすく製粉が容易な米粉向きの品種で、不透明な白色、ガラス質の表層を持つ玄米が特徴です。米粉は粒が細かく(粒子の直径が12μm、68μm程度のものが多い)なっています。

製粉に伴うデンプン粒の割れや傷が少ないため(損傷デンプン率約8%)、膨らみが良く型崩れしにくいパンをつくれます。栽培に適しているのは北海道で、収穫量は10aあたり約500㎏と、同じく北海道産の人気米「きらら397」より約1割少なめです。

 

こなだもん

製粉によるデンプン粒の損傷が少なく(損傷デンプン率約2%)米粉の粒が直径30μm程度と細かいため、パンが良く膨らんで焼きあがります。

アミロース含有率は約18.6%。型崩れしにくく、焼いてから時間が経っても硬くなりにくいパンとなり、未精製の粉でつくる玄米粉パンやグルテン無添加でのパンづくりにも向いています。

栽培に適しているのは年平均気温12〜18℃の温かな西日本エリアに広がる平らな土地です。「ヒノヒカリ」「放育5号」という2種類から誕生した米粉専用品種であり、収穫量は10aあたり52.1㎏となっています。

 

笑みたわわ

米粉の粒の直径が小さく製粉によるデンプン粒の傷や割れが少ない(デンプン損傷率約1.7%)ため、米粉にしやすい品種です。アミロース含有率は約21〜22%となっており、「ふくのこ」よりも柔らかいパンが焼きあがります。

家系図からはPMF₈4、モミロマン、ミズホチカラの3種類から生み出されたことが読み取れ、栽培適地は関東地方より西の年平均気温が12〜18℃という温かい地域です。10aあたりの収穫量が677〜692kg程度と多い上、雨風の影響を受けても倒れにくく、ミズホチカラよりも10日早く収穫できるなど、農作物としても優れた品種です。

 

ミズホチカラ

「笑みたわわ」の元になった品種で、笑みたわわ同様、米粒がもろいため細かな粒子の米粉となり、製粉時に損傷するデンプンの少なさが特徴です。アミロース含有率も「笑みたわわ」とほぼ同じ22%程度ですが、「笑みたわわ」よりもやや柔らかいパンができます。

ミズホチカラの家系図をみると「奥羽326号」と「86SH283長」という2種類から生まれています。九州地方を中心に栽培されている玄米の粒が大きな品種で、雨風にも倒れにくいです。収穫量は10aあたり686㎏と多く、「笑みたわわ」より約10日遅い収穫時期となります。

 

米粉めん用

麺どうしがくっつきにくい麺がつくれるため、アミロース含有率が20%以上である「弱高アミロース米・高アミロース米」の粉が製麺には適しています。なお、米粉100%の乾麺は茹でてから時間が経つと乾燥して硬くなったり、汁の中に長時間放置すると麺が汁を吸って食感が悪くなったりする場合があるので注意してください。

米粉めん用に向いている米の品種は北瑞穂、あみちゃんまい、越のかおり、亜細亜のかおり、ふくのこです。

 

北瑞穂

アミロース含有率が約30%と、一般的なお米の品種より1.5倍以上も高い点が最大の特徴です。和食やエスニック料理の麺だけでなく洋食メニューに向いたライスパスタにも加工でき、サクサクとした食感のクッキーもつくれます。

その他、北瑞穂の白米は炊くと硬めで粘りは少ないものの、その食感を活かしてライスサラダをはじめとする洋食メニューとしても楽しめるでしょう。北海道での栽培に適していて、収穫量は10aあたり600㎏とやや多めですが、雨や風に倒れやすく、一部の病気に弱いという特性もあります。

 

あみちゃんまい

「北瑞穂」と同じく、アミロース含有率が30%程度の「高アミロース米」です。

東北中南部、北陸、関東、東海など、夏期に気温が異常低下する「冷害」が起きない地域での栽培に適しています。代表的なお米の品種「コシヒカリ」より早く成長し、倒れにくくて栽培しやすいものの、一部の病気には強くありません。また一般的な日本のお米の品種と粒の形が同じため、専用の機械を使わずに選別や精米が可能です。

ちなみに、品種名「あみちゃんまい」の"あみ”は高アミロースの“アミ"、"ちゃん"は親しみやすさを込めた呼称の"ちゃん"に由来しています。

 

越のかおり

アミロース含有率は33.1%です。茹でた際に溶けにくく、東南アジアのお米のヌードルにもよく似た食感の麺づくりにも向いています。

在来種である「Surjamukhi」の高アミロースな特性を取り入れて開発されました。東北中南部から中・四国までの広い範囲で栽培でき、粒の形は「あみちゃんまい」と同様に従来の日本米と同じため選別や精米が簡単です。

日本の主要な米産地である新潟県の新たな特産物としてお米の消費拡大につながることを期待し、米どころ・新潟を香り高く彩るイメージから「越のかおり」と名付けられました。

 

亜細亜のかおり

白米のアミロース含有率は約32%で、高アミロース米の「越のかおり」と収穫量の多い「やまだわら」から開発された品種です。

麺の外観、香り、うま味、なめらかさ、弾力、硬さなどは越のかおり」によく似ていて、東南アジア風の麺としての利用普及を期待を込めて「亜細亜」と名付けられました。

粒が大きく収穫量が多く、10aあたり789〜817kgと20〜27%程度です。栽培適地は「越のかおり」と同じ東北中南部から中・四国までの広い範囲で、栽培中の倒れにくさや一部の病気への抵抗性は特に強くありません。

 

ふくのこ

アミロース含有率は27%程度と他の麺向き品種と比べるとやや低いものの、粉と水だけで麺がつくれ、製麺上の問題は全くありません。茹で調理中に湯への溶けが少なく、麺切れも少ない上、茹であがった麺は弾力と切れにくさを兼ね備えた高品質な仕上がりです。

高アミロース米の「こしのめんじまん」と収穫量が多く病気に強い「関東229号」から開発され、近畿から九州にかけての西日本で主に栽培されています。雨や風に比較的倒れづらく、病気に強く、選別や精米も容易です。多彩で幸せな食卓の主役となることを願って名付けられました。

 

お米の品種は多種多様

“稲穂”

米粉用の品種を紹介してきましたが、その他にも日本のお米(イネ)は長年の品種改良によって、病気や悪天候に強いもの、収穫量が多く味が良いもの、主食向きのもの、酒づくり向きのものなど、これまでに500種類以上が開発されてきました。

また近年では含まれる栄養成分から健康への影響が期待できる品種や、家畜のエサ用の他、鑑賞用品種も誕生しています。さらに朝食や夕食、家庭調理や外食といった多様な食のシーンや、特定の料理に適した品種、米粉を製造するのに向いているものなどもあります。

 

外食・中食に向く品種と特徴

“おにぎり”

外食用や中食(コンビニやスーパーのお弁当や総菜を購入する)用のお米には、味わいの良さに加えて収穫量の多さと価格の安さが必要です。

そういった外食・中食での用途に適した品種には、北海道産の「ゆきさやか」、東北・関東・東海・北陸エリアで栽培されている「ちほみのり」、北陸から九州までの広範囲で育てられている「にじのきらめき」「あきだわら」「あきあかね」、関東より西が栽培地の「恋初めし(こいそめし)」、近畿以西の「秋はるか」などがあります。

 

もちに向く品種と特徴

“おにぎり”

お米に含まれるでんぷんには「アミロース」と「アミロペクチン」の2種類があります。もちに向く品種(もち米)のでんぷんは粘りがある「アミロペクチン」100%のため、アミロース含有米に比べるとおいしさが長持ちしやすく、温度が下がっても硬くなりにくいです。

代表的な品種には、東北中南部~関東・東海での栽培に適した「ときめきもち」、おかきやせんべいなどに加工される「ゆきみのり」、硬くなりにくく良く伸びるもちがつくれる「ふわりもち」、大福やおはぎなど和菓子向きの「やたのもち」などがあります。

 

特定の料理に向く品種と特徴

“おにぎり”

他にも、料理ごとに適した品種もあります。例えば「華麗舞(かれいまい)」はさらりとした食感の表面と軟らかな内部で、とろみのついたカレールウとの相性が良い品種です。

また歯ごたえ良く仕上がり、粘りが抑えられて煮崩れもしにくいリゾット向きの「和みリゾット」、やや硬めでほぐれやすく、あっさりとした食感が寿司向きの「笑みの絆」、チャーハン・ピラフ用の「ホシユタカ」、おにぎりをつくるとおいしい「いのちの壱」などがあります。

 

お米の品種は用途で選べるようになろう!

“おにぎり”

ヘルシーで味が良く調理もしやすいと人気の「米粉」。お菓子やパン、麺など、それぞれの用途に合わせて最適なお米の品種でつくられた米粉を使うと、料理が一層おいしく仕上がります。

また、炊飯用やおもちづくり用、和食、洋食、中華、エスニック料理など向けに粒のままのお米を選ぶ場合も同様です。さまざまなお米の品種と特徴について知っておくと上手なお米選びができ、日々の食生活がさらに充実するでしょう。



参考文献 

aff(あふ)2016年1月号 農林水産省 参照年月日:2024年5月24日https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1601/spe1_03.html

様々な用途に向くお米の品種シリーズ  2020 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター 参照年月日:2024年5月24日
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/nicsrice-tec2020.pdf

みんなの農業広場 農作業便利帖  稲 米粉用の品種 一般社団法人全国農業改良普及支援協会/株式会社クボタ 参照年月日:2024年5月24日https://www.jeinou.com/benri/rice/2016/03/311350.html

米粉向き品種の特性解明とバリューチェーン形成の取り組み 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター 参照年月日:2024年5月24日
https://www.naro.go.jp/q_sfc/files/q20201006_03.pdf

米粉をめぐる状況について 農林水産省 参照年月日:2024年5月24日
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/attach/pdf/index-126.pdf

米粉調理のポイント 独立行政法人 環境再生保全機構 参照年月日:2024年5月24日
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/allergy/recipe/snack/komeko.html

米粉の用途に応じた主な米粉用品種の特性 農林水産省 参照年月日:2024年5月24日
https://www.jetro.go.jp/ext_images/industry/foods/ingredients/pdf/tokusei_list.pdf

農林水産省 「ミルキークイーン」についておしえてください。 参照年月日:2024年5月24
https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0004/02.html

品種詳細/こなだもん 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 参照年月日:2024年5月24日https://www.naro.go.jp/collab/breed/0100/0107/047583.html

「こなだもん」 農林水産技術会議 参照年月日:2024年5月24日https://www.affrc.maff.go.jp/docs/hinsyu/pdf/12_kome_konadamon.pdf

育種学研究Preview 暖地・温暖地向けの米粉パンに適した多収水稲新品種「笑みたわわ」の育成 中西愛 田村克徳ほか 参照年月日:2024年5月24日https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbbr/advpub/0/advpub_22J04/_pdf

米粉加工向け高アミロース品種 北瑞穂 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 参照年月日:2024年5月24日https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/harc_leaflet_kitamizuho_1.pdf

ライスサラダ シーフードマリネ添え 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 参照年月日:2024年5月24日https://www.naro.go.jp/laboratory/harc/contents/kitamizuho/salad/index.html

水稲「あみちゃんまい」 農林水産技術会議 参照年月日:2024年5月24日https://www.affrc.maff.go.jp/docs/research_result/norin_number/pdf/h25_rice_450.pdf

「越のかおり」とは~品種の特徴~国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構  北陸研究センター 参照年月日:2024年5月24日https://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/inada/koshinokaori/chara.html

プレスリリース 粘りの少ない水稲新品種「越のかおり」を用いた米麺を製品化 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中日本農業研究センター 参照年月日:2024年5月24日https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/press/laboratory/carc/013023.html

プレスリリース(研究成果)米麺に適した多収の高アミロース水稲新品種「亜細亜のかおり」 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中日本農業研究センター 参照年月日:2024年5月24日https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/carc/082674.html