食物アレルギー対策のアレルゲン除去で不足する栄養は?食材別に食事療法のコツを解説
食物アレルギーを持っていると、医師から特定の食品を除去するよう指示される場合があります。強いアレルギー症状が起こると全身状態が急速に悪くなる「アナフィラキシーショック」を起こし、命に関わることもあるからです。
でも、食物アレルギーがあって食べられない食材があると、その食材に含まれる栄養素の不足が心配になりますよね。アレルギーの原因となる食品を除いた除去食でも、栄養バランスをとるためには、それぞれの食材の持っている栄養素を理解して補う必要があります。この記事では、食物アレルギー対策として除去食をおこなう場合に、注意すべきポイントをまとめました。
食物アレルギーとは
食物アレルギーは、食物が原因となって起こるアレルギーです。免疫は、異物を排出するために人間が本来持っている機能ですが、免疫が本来無害なはずの食べ物に対して過敏に反応してしまう状態のことを食物アレルギーと言います。主な症状には、じん麻疹・湿疹・下痢・咳・ゼーゼーとした息(喘鳴)などが知られています。
食物アレルギーには、すぐに症状が出る即時型アレルギーとゆっくり症状が現れる遅延型アレルギーの2種類ありますが、児童生徒が発症する食物アレルギーのほとんどは食後2時間以内に症状が現れる「即時型食物アレルギー」です。
食物アレルギーの原因
アレルギーを起こす原因となる物質はアレルゲンと呼ばれます。
令和3年度に消費者庁が調査した「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」に拠ると、即時型アレルギーの原因食物は発生頻度が多い順に、鶏卵、牛乳、木の実類、小麦、落花生でした。この内、木の実類で最も食物アレルギーの件数が多いのはクルミです。ちなみに、落花生はピーナッツとも呼ばれて、ミックスナッツ等にも入っていますが、分類上は「豆類」となっています。
近年、牛乳、小麦の発生頻度はほぼ横ばいを続けていますが、「木の実類」は増加しています。
アナフィラキシーショックとは
アナフィラキシーショックは、アレルギー反応の中でも注意の必要な急性の過敏反応です。
主な症状は、呼吸困難やじんましん、血圧の急激な低下、めまい、失神、意識障害などで、急激に深刻な事態を引き起こし、命の危険さえあります。
アナフィラキシーショックなどの重篤な食物アレルギーを起こしやすい食物で、最も多いのは鶏卵です。次に牛乳、木の実類、小麦、落花生、魚卵、甲殻類、果物、魚、そば、大豆の順に続きます。アナフィラキシーショックを起こした原因食物でも、近年、「木の実類」の割合が増えています。
食物アレルギーの治療方法
食物アレルギーの治療方法には、大きく分けて2つあります。症状を発症させないための「食事療法」と、症状を抑える「薬物療法」です。除去食は原因となる食べ物の除去をする「食事療法」です。
食事療法は除去食だけではありません。食べられる食品は食べながら、定期的な検査と共に、栄養バランスが摂取出来るように食事を改善していき、アレルギー症状の改善を目指します。
食物アレルギーの食事療法とは
食事療法は、食物アレルギーを起こしやすい食品を避ける「除去食」が基本となります。
その食品を食べると、明らかに皮膚のかゆみ、じんましん、呼吸困難などが現れると確認した後に、除去食が検討されます。その際、定期的にアレルギー検査が実施され、アレルギー反応の強さの変化を確かめます。
治療中は栄養バランスが偏らないように、栄養士から指導されることもあるでしょう。
少量なら症状が出ない場合や加熱すれば大丈夫な場合には、「生だけ避ける」「少量にする」などの食事療法を実施する場合もあります。
アレルゲン除去食の実施について
食事療法のポイントは、原因食物を用いないで調理した「アレルゲン除去食」です。
しかし、アレルゲンとなる食物でも加熱調理で、たんぱく質を変性させれば低アレルゲン化することもありますので除去は必要最小限にし、不足するたんぱく質は他の食材で補います。
ずっと除去食を続けるわけでなく、定期的に検査を実施し、除去が本当に必要かどうか見極めながら実施されます。子どもの場合、成長にともなって耐性を獲得する場合も多いので、適切な時期に除去が解除できるように、定期的な受診が欠かせません。
アレルゲン除去食で注意すること
食品に対する耐性を獲得するまでは、医師と相談しながら進めます。決して自己判断で、除去食品数を増やさないでください。その際、口に入れるものは、すべて表示確認が必要になります。ですからアレルギー表示の読み方を習熟すれば、食品の選択の幅を広げることも可能です。
食品表示基準で表示の義務があると定められている「特定原材料」は、えび、かに、クルミ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)の8品目です。クルミ以外の木の実類は表示の義務がありません。
食事は生活に密接に関わっていますから、保育所、幼稚園・学校や親戚へも情報を共有しましょう。詳しくは以下の記事もご覧ください。
(※公開され次第「食物アレルギー」記事へのリンクを追加)
除去食材別 栄養に留意した食事療法のコツ
アレルゲン除去食を実施すると、たんぱく質が不足しがちな傾向はありますが、食材によって不足する可能性のある栄養素には違いがあります。この為、どの食品を除去するのかによって対応方法が違います。
ここでは、それぞれ重篤な食物アレルギーの原因抗原となる鶏卵、牛乳、木の実類、小麦、魚類、そば、エビやカニなどの甲殻類、野菜・果物、ピーナッツ、大豆について、注意するポイントを紹介します。
鶏卵
食物アレルギーの約3割は卵アレルギーです。アレルギーの原因となるのは主に卵白で、卵黄だけは食べられる場合もあります。
卵は、加熱するとアレルゲン性が低下します。加熱卵が食べられても、親子丼や半熟卵などには注意が必要です。また赤ちゃんの場合、家族が食べているものや食べこぼしに手を出す可能性があることにも気を配ってください。
鶏卵のたんぱく質を代替するには、肉や魚、大豆・大豆製品などが良いでしょう。ハンバーグのつなぎには、片栗粉やれんこんを使うなど、調理も工夫しましょう。
Mサイズの卵1個(可食部約50g)のたんぱく質について代替可能な食材を以下にご紹介します。
代替食材 |
Mサイズの卵1個を除去した場合にたんぱく質補給に必要な量 |
肉や魚 |
脂身を除いて30g |
牛乳 |
180mL |
木綿豆腐 |
90g |
絹ごし豆腐 |
120g |
牛乳
牛乳はたんぱく質だけでなくカルシウム源として重要な食品です。牛乳が使われていなくても脱脂粉乳、ホエイ、カゼインなど牛乳由来の物質については、食べていいかどうか主治医に確認しましょう。乳糖(牛乳アレルギーの方の多くは摂取出来ますが、専門医に相談してください)や牛肉は基本的に除去の必要はありません。
食品表示基準で表示の義務があると定められている「特定原材料」では、牛乳は乳と表示されますが、ヤギなどの乳は食品表示法の対象外です。山羊乳は、牛乳とタンパク質がよく似ていて交差抗原性が高いといわれる食材です。原材料表示をよく読み、主治医と相談しましょう。
牛乳アレルギーの原因となるたんぱく質は、チーズやバターなど乳製品によって含まれる量が違います。栄養面からも、専門医に相談しながら、食べられる食品の種類や量を細かく確かめましょう。
普通牛乳のカルシウムについて代替が可能な食材を以下に紹介します。
代替食材 |
90mLの牛乳を除去した場合にカルシウム補給に必要な量 |
調製豆乳 |
300mL |
木綿豆腐 |
107g(約1/4丁) |
絹ごし豆腐 |
133g(約1/3丁) |
桜エビ(素干し) |
5g |
ほしひじき(乾) |
10g |
切り干し大根(乾) |
20g |
小松菜(生) |
60g |
木の実類
木の実類とは、クルミ、カシューナッツ、アーモンド、マカダミアナッツ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、ココナッツなどを指します。ピーナッツは木の実類に含まれません。
アレルギーの原因となる木の実類の半数以上はクルミです。クルミアレルギーはアナフィラキシーショックを起こすこともあり、増加傾向であることから、2023年3月に施行された改正食品表示基準で食品への表示が義務化されました。ただ、2025年3月までは経過措置期間であり、クルミの表示がなくてもクルミを使っている可能性は残っています。
木の実類アレルギーの場合、アレルギーが出るナッツだけを除去すれば良く、一括りの除去は必要はありません。しかし、カシューナッツとピスタチオ、クルミとペカンナッツの間には強い交差抗原性があると報告されており、どちらかにアレルギーがあれば、両者を除去しなければなりません。
また、カシューナッツはアレルギー表示の推奨品目ではありますが、表示されていない場合があるため注意しましょう。さらに他のナッツ類は表示推奨品目ではないため、アレルギーを持っている場合は可能性を含め、原料を慎重に確かめる必要があります。
木の実類アレルギー発生割合内訳 調査期間2020年1月~12月
木の実類の種類 |
発生件数 |
発生割合(%) |
クルミ |
463 |
56.5 |
カシューナッツ |
174 |
21.2 |
マカダミアナッツ |
45 |
5.5 |
アーモンド |
34 |
4.2 |
ピスタチオ |
22 |
2.7 |
ペカンナッツ |
19 |
2.3 |
ヘーゼルナッツ |
17 |
2.1 |
ココナッツ |
8 |
1.0 |
カカオ |
1 |
0.1 |
栗 |
1 |
0.1 |
松の実 |
1 |
0.1 |
不明・ミックス |
34 |
4.2 |
総報告件数 |
819 |
100 |
即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査より
小麦
小麦は、パンやうどん、パスタの原材料で主食になる食材です。小麦の除去食を行うと、糖質やエネルギー不足に陥る危険があります。この場合は、主食を米にしましょう。他に米粉や雑穀を使った麺やパンも使えます。食パン6枚切り1枚が、ごはん(白米)100g、米粉40g程度と考えればいいでしょう。
小麦は加熱しても、アレルゲン性は変わりません。もし米粉のパンを食べるなら、小麦が付着している可能性があるのでトースター使用前にトースターを清掃する必要があります。他にも、グルテンと表示のあるものは、小麦アレルギーを起こす可能性があります。
小麦は醤油にも使われます。ある程度のアレルゲンは醸造過程で分解されますが、主治医に確認が必要です。他にも、大麦、ライ麦、えん麦、はと麦などは「特定原材料」の対象外ですがアレルギーのリスクがありますので、主治医に確認しましょう。また、麦ご飯についても相談してください。
魚類
青魚はアレルギーを起こしやすいと言われることがありますが、魚の身の区別による除去には根拠がなく、ひとつひとつアレルギー検査を行って、確かめる必要があります。
魚を除去しても、肉類や大豆加工品などでたんぱく質を補うことができますが、除去が続くと、ビタミンD不足のリスクが高くなります。ビタミンDは骨の健康に重要な役割をしているビタミンです。卵黄、きくらげ、干ししいたけ、アレルギー用ミルクなどで補いましょう。
そば
そばのアレルギーは頻度こそ高くありませんが、他の食品よりも微量でも、アナフィラキシーショックなどの重篤な症状を引き起こしやすいため、注意が必要です。
うどんとそばを扱っている店では、そばと同じお湯でうどんを茹でることもありますから、アレルギーが出ることがあります。他にも、そばを打っている店で、空中に飛散したそばの粉を吸入して症状が起きた事例もあります。飲食店のメニューには、アレルギーの表示義務はありません。そばを扱っている店を利用するときは、必ず問い合わせましょう。
また、そばアレルギーでは、そば殻の枕にも注意が必要です。どこかに宿泊することがあれば、事前に確認しましょう。
エビやカニなどの甲殻類
甲殻類(特にエビ)は、特定の食べ物を食べてから概ね2時間以内に運動をすると症状が現れる、食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因になりやすいとされています。
エビ・カニは特定原材料に指定されているので、加工食品を購入するときは食品表示を確認しましょう。
飲食店では表示の義務がありませんから、アレルギーがある旨を説明して使用しているかどうかを確かめてください。
野菜・果物
野菜や果物でアレルギーが出るときは、口の中が腫れたりかゆくなる口腔アレルギーが多くを占めます。野菜や果物を除去して不足する恐れがある栄養素は、ビタミンやミネラル、微量栄養素や食物繊維などです。代替となる食品は、野菜・果物の中で食べられる食材を探して使います。
野菜や果物の場合、花粉症とも関係が深く花粉症の人は、リンゴやモモ、サクランボなどバラ科の果物のアレルギーを起こしやすく、イネ科(カモガヤ、オオアワガエリなど)やキク科(ブタクサなど)の花粉症の人はメロンやスイカなどウリ科の果物に反応しやすいことが知られています。
ピーナッツ
ピーナッツ(落花生)は、加熱するとアレルゲン性が増加します。そのうえ、そばと同様に微量でもアナフィラキシーショックなどの重篤な症状を起こす傾向が高く、命にかかわる場合もあります。
ピーナッツオイルは風味がよく、アジア料理などでは加工食品に隠し味として使われていることがあります。ピーナッツは特定原材料に指定されている食材ですので、除去を指示された場合には、表示をよく見て対応しましょう。
大豆
大豆アレルギーでは、他の豆類の除去が必要なことは非常に少なく、豆類を一括りに除去する必要はありません。
大豆は日本人の食卓に欠かせない存在です。醤油や味噌は、加工の際にアレルゲン性が低下しますが、アレルギー反応がひどければ、除去することもあります。この場合は、米や雑穀などから作られる調味料で代替します。
食の楽しみを感じられる代替食品の紹介
食事は私たちにとって、大切な楽しみです。美味しい食べ物は、心を豊かにしてくれ、ストレス緩和もしてくれます。しかし、現代社会では健康を意識して栄養バランスのよい食事が推奨される一方で、アレルギーによって食の楽しみが奪われる方もいます。食物アレルギーはストレスでも悪化する一面もあるので、制限しすぎるのも考えものです。
そこで注目されているのが代替食品です。アレルゲン配慮の代替食品なら、アレルギーの原因となる食材を避けながら、食の楽しみを味わえ、ストレスを減らせます。
ショクタスでは、アレルギーに配慮した特定の原材料を使用していない商品を取り扱っています。食物アレルギーを持つお子さんの保護者の中には、おやつは手作りという方も多いと思います。しかし、手間のかかるケーキやプリンなどは、思うように作れなかったり面倒な時もあるでしょう。そんな時には、あまり手作りにこだわりすぎずに、親子の時間を楽しむことを優先するほうがいいかもしれません。
代替食品で“食”にまつわる悩みや不安を気にせず、食を楽しもう
食物アレルギーの方にとって除去食は、命を保つためにも必要な措置です。医師の指示に従って適切に実施しましょう。しかし、除去する食材によっては、栄養バランスを崩しかねないリスクもあります。そのため、栄養指導も行われます。
代替食品は、アレルギーの方でも食の楽しみを味わえる製品です。例えば、ショクタスでは、アレルゲン配慮食品として、玄米ブレッドや豆乳クリーム ロールケーキ などカテゴリ・ジャンル問わずバラエティー豊かな代替食品が用意されています。好みに合わせて利用すれば、ストレスを少なくしながら、除去食を実施できますね。
◎記事監修
佐藤留美(さとう・るみ)
藤崎メディカルクリニック 副院長医学博士。
日本内科学会認定・総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医、日本感染症学会専門医・指導医、日本化学療法学会認定医・指導医、日本結核病学会抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター、肺がんCT検診認定医
平成14年に久留米大学第一内科に入局。2年間の研修後は市中病院に勤務。その後、佐賀大学医学部大学院へ進学し、感染症の研究を行い医学博士を取得。
現在は朝倉医師会病院 呼吸器科医として勤務する傍ら、2023年10月より藤崎メディカルクリニック 副院長に就任。呼吸器・感染症・アレルギーを専門に診療を行っている。
参考文献
食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書 消費者庁 参照年月日:2024年2月20日 令和3年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書|消費者庁
食物アレルギーの基礎知識 愛知県 参照年月日:2024年2月20日 食物アレルギーの基礎知識|愛知県
食物アレルギー表示に関する情報 消費者庁 参照年月日:2024年2月20日 食物アレルギー表示に関する情報 | 消費者庁
食事療法の基本 独立行政法人環境再生保全機構 参照年月日:2024年2月20日 食事療法の基本|独立行政法人 環境再生保全機構
食事療法 独立行政法人環境再生保全機構 参照年月日:2024年2月20日 食事療法|独立行政法人 環境再生保全機構
よくわかる食物アレルギーガイドブック 独立行政法人環境再生保全機構 参照年月日:2024年2月20日 よくわかる食物アレルギーガイドブック|独立行政法人 環境再生保全機構
果物による口腔アレルギー症候群 ―花粉症との関連性について― 一般社団法人 奈良県医師会 参照年月日:2024年2月20日 果物による口腔アレルギー症候群 ―花粉症との関連性について―|一般社団法人 奈良県医師会
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 文部科学省